種類も価格もたくさんある塩。買うとき、何を優先しますか?
有名だから?安いから?パッケージが好みだから?選ぶ理由はそれぞれですよね。
価格も栄養成分も様々な理由の一つが、製造方法!
例えば「価格が安い塩は、機械で一気に大量生産されたもの」、「価格が高い塩は、時間をかけて手作りされたもの」といえるでしょう。
塩には、「海塩」、「岩塩」、「湖塩」、「藻塩」など種類がありますね。
本記事では、海塩の製造方法を解説していきます。
製造方法を理解することで、自分の優先したいことが明確になり、塩を選びやすくなります。
また、イオン膜を使われた精製塩は身体に悪い!と嫌われていますよね。
しかし、精製塩には天然塩にないメリットがあります。
精製塩のメリットやデメリットを理解したうえで、塩を選びましょう。
- 無添加生活5年目
- 生活クラブ、パルシステム、らでぃっしゅぼーやの利用経験あり
- 病院管理栄養士として10年間の勤務経験あり
塩の製造方法
塩の作り方を段階ごとに説明していきます。
濃縮(採かん)
海水は水とミネラルからできており、水分量が約97%含まれます。
つまり1リットルの海水は、970gの水分と30gのミネラル。
塩を作るためには、まず海水からこの大量の水分を除く(=濃縮=採かん)必要があり、様々な方法が使われます。
濃縮工程のゴールは、「濃い海水(かん水)」を作り出すことです。
イオン膜を使った方法
イオン?!難しいことは無理!
磁石がイメージできれば大丈夫!
塩は塩化ナトリウムですね。化学式で書くと「NaCl」です。
つまりNaClはNa+とCl-。
イオン膜を使った濃縮方法を、図をお借りして説明します。
プラスイオンしか通さない膜(膜A)と、マイナスイオンしか通さない膜(膜B)が交互に並んでいて、両端にプラスとマイナスの電極がある装置を使います。
出典:イオン膜塩 | 天日海塩 カンホアの塩 (shio-ya.com)
電極に電気を流すと、プラス側にCl⁻が引き寄せられ、マイナス側にNa⁺が引き寄せられます。
この方法で、Na⁺が濃い部屋(図の1番左の部屋)、薄い塩水の部屋、濃い塩水の部屋、Cl⁻が濃い部屋(図の1番右の部屋)に分けることができます。
イオン膜のポイントは、Na⁺とCl⁻だけを通すことができる点です。
海水には、Na⁺やCl⁻以外の栄養成分(カルシウムやマグネシウム)はもちろん、汚染成分(細菌類、石油類、洗剤、船底塗料など)も含まれます。しかし、イオン膜を使った濃縮方法では、良くも悪くも「Na⁺とCl−だけの濃い海水」が作られます!
逆浸透膜・RO膜を使った方法
次に、「逆浸透膜・RO膜」です。
逆浸透膜も良くないって言う人がいたよ~
「イオン膜=精製塩」のイメージに引っ張られているのか、「逆浸透膜」も避けるべきという方もいますね。
結論、私は「逆浸透膜」が使われている塩に、問題はないと考えています。
「逆浸透」を理解する前に、「浸透」を理解しましょう。
「浸透」とは、半透膜を通して、水が移動することです。
キュウリに塩を振って、しばらくすると水が出てきますよね。この反応も、浸透です。
イラストをお借りして、解説します。
左側の水は淡水なので、塩が含まれません。右側の水は塩水なので、塩が含まれます。
出典:海水を淡水にするには? 「逆浸透」の原理を解説 (mitsuichemicals.com)
塩水の塩分濃度を薄めるには、どんな方法が考えられますか?
塩を淡水に移動させるか、淡水の水分を塩水に移動させる!
大正解!ここで半透膜の役割が重要です!
半透膜は、水分は通すことはできるけど、塩を通すことはできません。つまり、水分が塩水に移動します。
上記のイラストは、淡水から水分が移動して、塩水の水分量が増えた様子が描かれていますね。
半透膜を介して、水が移動するときに働く力が「浸透圧」です。
それでは、「逆浸透」の解説にうつります。
出典:海水を淡水にするには? 「逆浸透」の原理を解説 (mitsuichemicals.com
塩水の水分だけを、半透膜を通して淡水に移動させるのが「逆浸透」です。
人為的に圧力をかけて、水分が移動しているのが上のイラストに描かれていますね。
逆浸透膜によって作られる水は、海水に含まれるミネラルがそのまま残っている濃い海水です。
逆浸透膜・RO膜を使った濃縮方法では、Na⁺とCl⁻だけでなく、マグネシウムやカルシウムなどのミネラルも濃い海水に含まれます!
結晶化
海水を濃縮した後に行う工程が結晶化です。結晶化にもいくつかの方法があります。
天日
太陽の光、風によってじっくり時間をかけて結晶化させていく方法。
乾燥した気候かつ、広大な土地がある国(アメリカやメキシコ、オーストラリアなど)で良く作られています。
※濃縮に天日が使われることもあります。(製造方法例:天日、平釜)
出典:ゲランドの塩 | 株式会社アクアメール|ゲランドの塩などフランス食材の輸入卸販売 (aquamer.co.jp)
写真は、私が愛用している「ゲランドの塩」の塩田風景です。フランスの伝統的な海塩で、自然と人の手で丁寧に作られています♪
自然の力で作られるため、天然塩や自然塩と呼ばれることもあります。
平釜
平らな釜で煮詰めていく方法。
多湿な日本で昔から行われてきた製造方法であり、水分が蒸発しやすいように設計された広く浅い釜で結晶化させます。
出典:「海の精 あらしお」の物語 – 海水100% 天日と平釜 日本の伝統海塩 「海の精(うみのせい)」 (uminosei.com)
日本の伝統海塩といえば、「海の精」。
写真は、海の精の平釜です。
平釜で作られるので、平釜塩と呼ばれます。
立釜
密閉した釜で、圧力を利用し結晶化していく方法。
近代的な釜を使う製造方法です。圧力をかけるため低温で海水を沸騰させることができ、少量のエネルギーで結晶化できるメリットがあります。
出典:日本の塩のつくり方|日本の塩|一般社団法人日本塩工業会 (sio.or.jp)
立釜で作られた塩はほとんど精製塩であり、栄養成分の99.5%以上がナトリウム。
その他の結晶方法
ミネラルが豊富な塩で有名な、「ぬちまーす」、「雪塩」は独自の製造方法で作られています。
ぬちまーす
「逆浸透膜」を使って濃い海水にした後に、「常温瞬間空中結晶性塩法」を行います。
濃い海水を空中で霧にし、温風を吹きかけることによって霧の中の水分だけを蒸発させ、ミネラル成分を瞬時に結晶化する製造方法です。
出典:ぬちまーすが出来るまで
雪塩
雪塩には他の塩にはない「地下海水を汲み上げる」工程があり、琉球石灰岩つまり天然のフィルターを海水が通ります。
宮古島の地形を生かした「雪塩」ならではの製造方法です。
琉球石灰岩→RO膜を通過してきた濃い海水は、熱々の金属板(加熱ドラム)に吹き付けられて瞬時に結晶化します。
出典:雪塩のこだわり | 宮古島の雪塩 (yukishio.com)
ここからの工程がない商品もあります!
粉砕
粉砕の工程が必要なのは、粒が大きい天日塩や平釜塩。
もちろん粒の大きさを生かし、粉砕せずにそのまま販売されている商品もあります。
結晶化の方法によって、粒の大きさや結晶の形に違いが現れます。
- 天日塩や平釜塩はじっくり結晶化されるため、粒が大きめ。
- 立釜塩は、0.1mmから1.5mm程度の大きさに調整が可能。
結晶の形の違い
【立釜で作る塩に多い形:サイコロ形】
立釜の中は真空で、激しく攪拌される。
そのため結晶がたくさん内壁にぶつかって、サイコロ状になる。
【天日で作る塩に多い形:トレミー(逆ピラミッド)】
塩水の表面にできた結晶が積み重なっていくことで、
重くなり沈み込みながら結晶化していく。
結果、トレミーという逆ピラミッド形になる。
【平釜や天日で作る塩に多い形:フレーク】
塩水の表面に膜を張るように結晶化し、
割れるとうすい板状(フレーク状)になる。
参考・画像の出典:塩の基礎知識|塩を知る|個人のお客様|株式会社 日本海水 (nihonkaisui.co.jp)
粉砕方法は、様々なやり方があります。
いくつかの粉砕方法を紹介しますね。
- 「カンホアの塩」の粉砕方法は、「石臼で挽く」
- 「ゲランドの塩」は、細かく砕きフィルターを通す
- 「海の精 ほししお」は結晶化していく途中で、毎日攪拌して粒の大きさを調整する
カンホアの塩のこだわりがすごいですね!
溶解
溶解とは、文字通り溶かす工程であり、「再生加工塩」を作る際に行われます。
再生加工塩を解説します。
再生加工塩
- 海外(主にオーストラリアやメキシコ)の天日塩を輸入する
- 輸入した天日塩に海水やミネラルを混ぜて溶かし、濃い海水を作る
- 2の濃い海水を天日や平釜、立釜で結晶化させる
海外から天日塩を輸入することで、大量の水分を除く濃縮の工程を省くことができるため、再生加工塩は天然塩より価格が安いです。
再生加工塩の中でも、にがりやミネラルではなく、海水を混ぜて平釜で再結晶化している塩が、天然塩に近いと私は考えています。
再生加工塩の商品をいくつかまとめしました。
〇天日塩(オーストアリアまたはメキシコ)、海水、溶解、平釜⇒「真塩(生活クラブ)」、「シママース」
△天日塩(オーストアリアまたはメキシコ)、海水、溶解、立釜⇒「伯方の塩」
△天日塩(オーストラリア)、粗製海塩塩化マグネシウム(オーストラリア)、溶解、立釜⇒「赤穂の天塩」
※私は立釜で作られた塩を選ばないので、「伯方の塩」と「赤穂の天塩」を△にしました。
焼成
焼成とは焼く工程です。「焼き塩」がイメージしやすいと思います。
水分を飛ばし、湿気の原因であるニガリ成分(塩化マグネシウム)を分解することによって、サラサラと使いやすい塩になります。
参考:海の精 やきしお(国産) – 海水100% 天日と平釜 日本の伝統海塩 「海の精(うみのせい)」 (uminosei.com)
製造方法で商品を分類
製造工程を図式化してみました。
色を分けている部分について説明します。
・水色は主に海水の濃縮工程
・赤色は結晶化の工程
・黄色は結晶を粉砕する工程
・緑色はおすすめな塩
※瀬戸のほんじお、伯方の塩、赤穂の天塩は比較のために掲載しており、おすすめしたい塩ではありません。
まとめている塩の価格、栄養成分、使いやすさなど、詳しく知りたい方は、下記の記事を読んでみてくださいね。
イオン膜が使われているミネラルが多い塩
少し変わった製造方法で作られる「瀬戸のほんじお」を紹介します。
「瀬戸のほんじお」の製造方法は【イオン膜・立釜】。
製造方法を見た私は、精製塩だと思い込みました。そして栄養成分を確認し、マグネシウムなどのミネラルが多く含まれていて驚きました。
精製塩ではないの?!と疑問を抱いたので、製造元の味の素に問い合わせをしてみました。
以下、私が質問した「イオン膜使用後に、にがりを添加しているのか?」への返答の抜粋です。
「瀬戸のほんじお」は、海水をろ過し、イオン交換膜濃縮法で濃縮してかん水を作ります。かん水を釜で煮詰めた後に、冷却すると塩の結晶が析出、ふるいにかけて塩の結晶とにがり液に分けます。このにがり液をさらにミネラル(カリウム、マグネシウム、カルシウム)の多い状態にして、再度、塩の結晶に含ませることにより、ミネラルの多い「瀬戸のほんじお」を作っています。
なるほど……
製造方法を理解したところで、以下の2つの理由から私は瀬戸のほんじおを選びません。
- イオン膜を使って一度、精製塩を作ること。
- イオン膜で分けたにがり液から、カリウム、マグネシウム、カルシウムの多い液体に調整し、それを塩に含ませること。
⇒つまり、もともとの海水のミネラルバランスから、瀬戸のほんじお独自のミネラルバランスに作り替えるということです。
私は海水のミネラルをそのまま塩にした商品を選びたい!!
瀬戸のほんじおは選びません……。
日本と海外の塩づくりを比較
海外と日本の塩づくりの違いを比較してみましょう。
日本 | 海外(メキシコやオーストラリア) | |
気候 | 多雨多湿 | 日射量が多く、雨が少なく乾燥している |
地形 | 広大な塩田が作れない | 広大な塩田 |
作りやすい塩 | 煎ごう塩(平釜塩) | 天日塩 |
表の通り、天日塩に不向きな気候と地形のため、煎ごう(=釜で煮る)による塩づくりが行われてきたんですね。
平釜塩である「海の精」が伝統海塩といわれる理由が、理解できますね!
イオン膜のメリットとデメリット
現在、日本で生産されている塩の90%は、イオン膜による精製塩です。
無添加生活や、健康志向な方に嫌われることが多いですが、塩の安定供給に必須といえます。
イオン膜による精製塩のメリットとデメリットを整理しましょう。
イオン膜の特徴は、海水からNaClのみを抽出できることでしたね!
メリット | デメリット |
---|---|
汚染成分を除去できる=安全な塩といえる 天候に左右されず、安定供給できる | NaCl以外のミネラル(マグネシウムやカルシウムなど)も除去される |
私はイオン膜によって得られる安全な塩よりも、美味しくてミネラル豊富な天然塩を選びます。もちろん安全性も譲りません!
【塩の安全性】について詳しく知りたい方は、下記の記事を読んでみてくださいね。
塩の製造方法まとめ
塩の製造方法が理解できましたか?塩を手にして、製造方法を見てみましょう。
製造方法を復習します。
- 濃縮(採かん)でかん水を作る方法:イオン膜、逆浸透膜、天日
- 結晶化の方法:天日、平釜、立釜、常温瞬間空中結晶性塩法、加熱ドラム
- 粉砕の方法:石臼やフィルター、手作業
- 溶解:再生加工塩で行われる
- 焼成:焼き塩で行われる
自分で優先したいことを整理して、塩を選びましょう。
塩選びのための、知識が増えたら幸いです♪
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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